力学詳論I
全学共通教育科目, 大阪大学, 全学共通教育機構, 2019
専門基礎教育科目(理学部)、月曜日3限、共C302教室
KOANシラバス
試験通知
- 日時 8月5日 13時より14時30分まで(3限)
- 科目 力学詳論I
- 担当 湯川諭
- 教室 共C302
試験範囲は講義の初めから、万有引力による運動まで。波動は範囲に含まない。
スケジュール
4月8日
始めに: 物理学とは。近似について。Taylor展開
質点の運動の記述: 物理量と単位、次元。無次元量。
数学的内容: Taylor展開
4月15日
質点の運動の記述: ベクトル(定義、内積、外積)
数学的内容: ベクトルとその演算(大きさ、内積、外積)
4月22日
質点の運動の記述: 位置の表現と、速度、加速度
数学的内容: ベクトルの微分
5月13日
運動の法則: Newtonの運動の法則、力積、慣性の法則
運動方程式の解法: 運動の分解、放物運動
数学的内容: 常微分方程式とその解法1(素直に積分する)
5月20日
運動方程式の解法: 摩擦を受ける落体の運動(粘性抵抗、慣性抵抗)
数学的内容: 常微分方程式とその解法2(変数分離型)、指数関数、三角関数、双曲線関数
5月27日
運動方程式の解法: 単振動、減衰振動
数学的内容: 常微分方程式とその解法3(定数係数線形常微分方程式,斉次/非斉次)
6月3日
運動方程式の解法: 強制振動(共鳴)
仕事とエネルギー: 保存量、仕事と運動エネルギー
数学的内容: 常微分方程式とその解法3(定数係数線形常微分方程式の非斉次型)
6月10日
仕事とエネルギー: 仕事と運動エネルギー、保存力と力学的エネルギー保存則、ポテンシャルエネルギーの例
数学的内容: 線積分、偏微分
6月17日
中間試験(仕事とエネルギーまで)30分程度
仕事とエネルギー: ポテンシャルエネルギーの例
振り子の運動: 平面振り子の極座標表示
6月24日
振り子の運動: 微小振幅の運動、有限振幅の運動
7月1日
角運動量保存: 角運動量とモーメント、中心力、面積速度
惑星の運動:万有引力の法則、Keplerの三つの法則、軌道
7月8日
惑星の運動:軌道の計算とKeplerの法則
7月22日
惑星の運動:逆問題、Kepler方程式、Laplace-Runge-Lenzベクトル、有限体積をもつ物体からの万有引力
7月29日
波動入門: 波動現象、進行波、正弦波、うなりと群速度、1次元の波動方程式
8月5日
期末試験
8月6日
波動入門: 波動方程式の力学からの導出、3次元の波動方程式
Quiz
Quiz1(4月8日出題)
「速さ」「力」「エネルギー」「仕事」「圧力」の次元を、質量、長さ、時間の次元\(M, L, T\)の組み合わせで表せ。
Quiz2(4月15日出題)
三つの互いに独立なベクトル\(\mathbf{a}, \mathbf{b},\mathbf{c}\)に対し \[ (\mathbf{a} \times \mathbf{b} ) \cdot \mathbf{c}
=(\mathbf{b} \times \mathbf{c} ) \cdot \mathbf{a}
=(\mathbf{c} \times \mathbf{a} ) \cdot \mathbf{b}
\] を示せ。(実はこの量の絶対値は\(\mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{c}\)が作る平行六面の体積と等しい。)
Quiz3(4月22日出題)
極座標で書かれた二次元平面上の運動 \[ \mathbf{r} = v t \,\mathbf{e}_r \enspace , \quad \theta = \omega t \] (\(t\)を時間として、\(v > 0, \omega >0 \) とする)を考える。
- 極座標系の基本ベクトル\( \mathbf{e}_r , \mathbf{e}_{\theta} \)を、直交座標系での基本ベクトル\( \mathbf{e}_x, \mathbf{e}_y \)の線形結合で表せ。
- 速度ベクトルと、加速度ベクトルを、(1) 直交座標系で求めよ (2) 極座標系で求めよ。
Quiz4(5月13日出題)
\( x, y \)平面内を運動する質量\( m \)の質点を考える。質点には\( y \)軸負の向きに重力が働いているとする。重力加速度の大きさを\( g \)とする。 時刻\( t=0 \)で、\( x=y=0 \)から、初期速度\( \mathbf{v} = (v_x, v_y ) \enspace v_x > 0, v_y > 0\)で質点を打ち上げる。その後の質点の運動を、運動方程式を積分することによりもとめよ。
Quiz5(5月20日出題)
粘性抵抗をうけて物体が重力場中落下するとき、速度および位置を時間の関数として運動方程式を立てて積分し求めよ。 初期条件は\( t=0 \)で\( v = 0, \enspace y=0 \)とする。
Quiz6(5月27日出題)
抵抗力を受ける単振動の運動方程式 \[ m \dfrac{d^2 x}{dt^2} = - k x - \lambda m \dfrac{dx}{dt} \] に対し、\(t=0\)で\(v=0, x=x_0 \)の初期条件のもと、運動の様子を調べよ。また変位を時間の関数としてグラフにプロットせよ。
Quiz 7(6月3日出題)
以下の\( x(t) \)に関する非斉次の1階線形微分方程式を考える。 \[ \left[ \dfrac{d}{dt} - a \right] x(t) = f(t) \] \( a \)は定数、\( f(t) \)は\( t\) のあらかじめ定まったある関数とする。 斉次方程式(\( f=0 \)) を解くと、 \[ x(t) = C e^{at} \] が一般解である。 \( f \ne 0 \) の時、この斉次方程式の解の定数 \( C\) を関数 \( g(t) \) で置き換えて代入することで、非斉次方程式の特解を求める事ができる。(定数変化法)
- 実際に、定数\( C\)を\( g(t) \)で置き換えたものを非斉次方程式に代入し、\( g(t) \)が満たす微分方程式を求めよ。
- 具体的にその方程式を解き、特解\( x(t) \)を求めよ。
- 次に、次の非斉次2階定数係数線形常微分方程式を考える。 \[ \left[ \dfrac{d}{dt} - a \right] \left[ \dfrac{d}{dt}-b \right] y(t) = f(t) \] この微分方程式に対して \[ \left[ \dfrac{d}{dt}-b \right] y(t) = x(t) \] とおくと、上で考えた1階の微分方程式とおなじ形になることを利用して、特解\( y(t) \)を求めよ。
それぞれの問題で、得られたものが特解になっているかどうかは逆に微分することで確かめられるので、実際解になっているか確認せよ。
Quiz 8(6月10日出題)
力\( \mathbf{F} = \begin{pmatrix} x , xy , 0 \end{pmatrix} \)に対し、点\( (0,0) \)から点\( (1,1) \)への 線積分 \[ W = \int_{(0,0)}^{(1,1)} d\mathbf{r} \cdot \mathbf{F} \] を以下の二つの経路で考える。それぞれの経路に対して値を求めよ。
- 点\((0,0)\)からy軸に平行に点\( (0,1) \)にいたり、その後x軸に平行に\( (1,1) \)へ行く経路
- 点\( (0,0) \) から、点\( (1,0) \)を中心とする半径1の4分の1円弧上をとおって点\( (1,1) \)へ行く経路
Quiz 9(6月17日出題)
万有引力ポテンシャル\( U = - \dfrac{GMm}{\lvert \mathbf{r} \rvert } \)に対し、万有引力を \begin{align} F_x & = - \dfrac{\partial U}{\partial x}\
F_y & = - \dfrac{\partial U}{\partial y}\
F_z & = - \dfrac{\partial U}{\partial z} \end{align} で具体的に計算せよ。
Quiz 10(6月24日出題)
慣性抵抗と重力をうけて自由落下するとき、鉛直に\( y\)軸を取ると運動方程式は \[ m \dfrac{d^2y}{dt^2} = - m g - m \lambda \epsilon \left( \dfrac{dy}{dt} \right)^2 \] とかける。ここで\( \epsilon \)は、符号を表し \( \dfrac{dy}{dt} > 0 \)のとき\( +1 \)、 \( \dfrac{dy}{dt} < 0 \)のとき\( -1 \)、\( \dfrac{dy}{dt} = 0 \)のとき\( 0 \)とする。 運動方程式を\( \dfrac{dy}{dt} = v \)と置いて \begin{align} \dfrac{dv}{dt} = - g - \lambda \epsilon v^2
\dfrac{dy}{dt} = v \end{align} と書き直す。 \( y-v \)平面が相空間であり、\(y-v\)平面上で、ベクトル場\( \left( \dfrac{dy}{dt}, \dfrac{dv}{dt} \right) \) の振る舞いを調べることで運動の様子を調べよ。
Quiz 11(7月1日出題)
原点を支点として、長さ\( \ell \)の軽い棒で吊られた三次元的に振動できる質量\( m\)の重りのついた振り子を考える。 鉛直下向きに重力がかかっており重力加速度の大きさを\( g\)とする。鉛直上向きに\( z\)軸正の向きを取り、張力の成分を\( ( T_x, T_y, T_z \))とすると、運動方程式は \begin{align} m \dfrac{d^2x}{dt^2} & = T_x \
m \dfrac{d^2y}{dt^2} & = T_y \
m \dfrac{d^2z}{dt^2} & = T_z - mg \end{align} となる。ただし\( x^2 + y^2 + z^2 = \ell^2 \)である。 この時、\(z \)軸まわりの角運動量\( L_z = x P_y - y P_x\)が保存する事、また \( x, y\)軸まわりの角運動量\( L_x = y P_z- z P_y, L_y = z P_x - x P_z\)が保存しないことを示せ。ただし\( P_x, P_y, P_z \)は運動量のそれぞれの成分の値である。
Quiz 12(7月8日出題)
質量\( m \)の質点が原点付近に調和ポテンシャルで拘束されている。運動方程式は調和ポテンシャルの角振動数\( \omega \, (>0) \)として \[ m\dfrac{d^2\mathbf{r}}{dt^2} = - m \omega^2 \mathbf{r} \] となる。 初期時刻\(t=0 \)で\( x = \ell ( > 0 ), y = 0, z=0 \) また初期速度 \( \dfrac{dx}{dt} = 0 , \dfrac{dy}{dt}= u (>0) , \dfrac{dz}{dt} = 0 \)としたとき、 角運動量保存とエネルギー保存を使って質点は楕円軌道もしくは円軌道を描くことを示せ。
Quiz 13(7月22日出題)
惑星運動の逆問題を考える。
- 速度ベクトルを極座標で一般的に表せ。
- 面積速度が保存するとき、速度ベクトルの時間微分の方向が動径方向である事を示せ。
- 軌道が原点を焦点とする楕円軌道であるとき、速度ベクトルの時間微分の大きさが原点からの距離の二乗に反比例することを示せ。
評価
試験(中間、期末に各一回、60%)、及びQuiz等(平常点 40%)で判断する。シラバスに従う。
数学について
物理はトリビアや公式の集合ではなく、数学的にきちんと記述されるものです。 その記述の中では、微分やベクトル、行列などが出てきます。 微分やベクトルは高校の数学の中で習得してるはずのものですが、 行列に関しては大学の線形代数で初めて習う対象です。 講義の中で行列が出てくるところでは適切に補足していくつもりですが、 自習用のために参考書を挙げておきます。
- 参考書: 長谷川浩司「線形代数(改訂版)」日本評論社、 特に第一部は完全に身につけることが必要。
また、常微分方程式についても重点を置いて取り扱います。参考書を挙げておきます。
- 参考書: 坂井秀隆「大学数学の入門10 常微分方程式」東京大学出版会
参考書
参考書は、詳しい内容や教科書以外の記述を見たくなった場合に利用してください。 また関連図書は直接講義とは関係ないが、力学やその周辺に関連するものです。 おそらくすべて大学図書館にあります。
- 教科書: 藤原邦男「物理学序論としての力学」東京大学出版会
- 参考書: 前野昌弘「よくわかる初等力学」東京図書
- 参考書: 窪田高弘「力学入門」培風館
- 参考書: リチャード・ファインマン、ロバート・レイトン、マシュー・サンズ、坪井忠二訳「ファインマン物理学 I 力学」岩波書店
- 演習書: 後藤憲一、山本邦夫、神吉健共編「詳解力学演習」共立出版
- 演習書: 江沢洋、中村孔一、山本義隆著「演習詳解力学」日本評論社
- 関連図書: ゴールドスタイン「古典力学」吉岡書店
- 関連図書: エルンスト・マッハ、岩野秀明訳「マッハ力学史 古典力学の発展と批判(上、下)」ちくま学芸文庫
- 関連図書: 山本義隆「古典力学の形成 ニュートンからラグランジュへ」日本評論社
- 関連図書: 山本義隆「重力と力学的世界 古典としての古典力学」現代数学社