非平衡現象論

理学研究科宇宙地球科学専攻大学院科目, 大阪大学, 理学部, 2019

大学院科目、金曜日2限、理F202教室

最終課題

以下の二つの課題を提出せよ。
締め切り: 2月10日(厳守)
提出媒体:紙媒体もしくは電子媒体
紙媒体はF517号室前レポート入れ、電子媒体は yukawaあっとess.sci.osaka-u.ac.jpまで。

  • Quizの中から、4問を選択し解答せよ
  • ゆらぎ、緩和、輸送、応答、ゆらぎの定理、情報熱力学など講義で出てきたキーワードを含む論文を 読んでレポートするか、そのキーワードを含む自分の研究内容をレポートにする

スケジュール

10月4日
非平衡現象とは。平衡近傍でのゆらぎ、Boltzmann-Einsteinの原理。最小仕事による表現

10月11日
ゆらぎの動力学、Onsagerの相反定理

10月18日
最小散逸の原理、Onsager係数の決定

10月25日
Onsager-Machlup過程、例:ブラウン運動

11月8日
ポテンシャルのある系のブラウン運動 線形応答: 古典系の静的な場合

11月15日
線形応答: 量子系の静的な場合 線形応答: 動的な場合に向けて。Liouville動力学

11月22日
線形応答: 摂動展開、静的な場合再び

11月29日
線形応答: 複素アドミッタンスとエネルギー散逸、Kramers-Kronig関係、揺動散逸定理

12月6日
出張により休講の予定

12月13日
ゆらぎの定理: 散逸ダイナミクス

12月20日
ゆらぎの定理: ゆらぎの定理、Jarzynski等式

1月10日
沙川さんの集中講義のため休講の予定

1月24日
ゆらぎの定理: シア系での具体例

1月31日
情報と熱力学: Maxwellデーモン、シラード機関

2月5日(振替講義日)
情報と熱力学: Maxwellデーモン、シラード機関、ランダウアーの原理

2月7日
情報と熱力学: フィードバック系のゆらぎの定理

Quiz

Quiz 1(10月4日出題)
マクロ量 \( \{ a_i \} \)の分布はエントロピーで支配される。 \[ P(\{ a_i \} ) = \dfrac{1}{\mathcal{N}} \exp \left( \dfrac{1}{k_\mathrm{B}} S(\{a_i\})\right) \] このとき、指数関数の肩を平衡状態のマクロ量\( \{ \overline{a_i} \} \)からのずれで展開して、 \[ P(\{a_i\}) = (2\pi)^{-n/2} \left[ \det \left( -\dfrac{1}{k_\mathrm{B}} \dfrac{\partial^2 S}{\partial a_i \partial a_j } \right) \right]^{1/2} \exp \left( \dfrac{1}{2 k_\mathrm{B}} \sum_{ij} \dfrac{\partial^2 S}{\partial a_i \partial a_j} (a_i - \overline{a_i}) (a_j - \overline{a_j}) \right) \] とかけることを示せ。

Quiz 2(10月11日出題)
マクロ量 \( \{ a_i \} \)の分布 \[ P(\{a_i\}) \propto \exp \left( -\dfrac{1}{2 } \sum_{ij} A_{ij} a_i a_j \right) \] に対し、期待値 \( \left\langle a_i a_j \right\rangle = A_{ij}^{-1}\)となることを示せ。

Quiz 3(10月18日出題)
Hall効果をDrudeモデルにより考察する。 電荷\(q\)をもつ質量\(m\)の荷電粒子が運動方程式 \[ m \dfrac{d\mathbf{v}}{dt} = q \mathbf{E} + q \mathbf{v} \times \mathbf{B}- \gamma \mathbf{v} \] に従うとする。ここで\(\mathbf{E}, \mathbf{B}\)はそれぞれ電場、 磁場、\(\gamma\)は散逸を表す。 電場、磁場が\(\mathbf{E} = (E_x, E_y, 0) , \mathbf{B} = (0,0,B)\)のとき、 定常速度\( (v_x, v_y) \)を求め、電気伝導率テンソル\( \sigma_{xx}, \sigma_{xy},\sigma_{yx},\sigma_{yy} \)を \begin{align} v_x & = \sigma_{xx} E_x + \sigma_{xy} E_y \
v_y & = \sigma_{yx} E_x + \sigma_{yy} E_y \end{align} で定義したとき、電気伝導率テンソル\( \sigma_{xy} , \sigma_{yx} \)に関してOnsagerの相反定理が成立していることを確認せよ。

Quiz 4(10月25日出題)
ブラウン運動のLangevin表現、 \[ \dfrac{dp_i}{dt} = - \dfrac{f}{T_R M} p_i + \xi_i(t) \] ただし\( \langle \xi_i(t) \rangle_{eq} = 0 \enspace , \quad \langle \xi_i(t) \xi_j (t’) \rangle_{eq} = 2 k_\mathrm{B} f \delta_{ij} \delta (t-t’) \)に対して、 \[ \langle p_i (t+\tau) p_j (t) \rangle_{p_i(0)=p_i^0, p_j(0)=p_j^0} \] を計算せよ。また、初期値 \( p_i^0, p_j^0 \)を熱平衡にとり十分に時間が経った後の、 \[ \langle p_i (t+\tau) p_j (t) \rangle_{eq} - \langle p_i (t+\tau) \rangle_{eq} \langle p_j (t) \rangle_{eq} \] を計算せよ。

Quiz 5(11月8日出題)
\(L \times L \times L \)の立方体中に\( N \)個の古典的な自由粒子が逆温度\( \beta \)の熱平衡状態として存在している。 この自由粒子の重心位置\( \dfrac{1}{N} \langle \sum_i q_i^z \rangle \)の重力に対する応答を 線形応答の範囲で調べよ。また、重力は立方体のある辺と平行なz軸負の向きにかかるとする。 この系では厳密な重心位置も評価できるので、線形応答の結果と比較せよ。

Quiz 6(11月22日出題)
Quiz 4の相関関数を、Fokker-Plack方程式 \[ \dfrac{\partial P}{\partial t} = k_\mathrm{B} f \sum_i \dfrac{\partial^2 }{\partial p_i^2} P + \dfrac{f}{T_RM}\sum_i \dfrac{\partial }{\partial p_i} (p_i P) \] を使って計算せよ。

Quiz 7(11月22日出題)
ハミルトニアン\(H\)とのPoisson括弧で定義される\( \mathcal{L}(\cdot) =\{ \cdot, H\}\) という線形微分演算子に対して、 平衡分布\( f_{eq}\propto \exp -\beta H \)が \[ \mathcal{L} f_{eq} = 0 \] となることを示せ。

Quiz 8(12月13日出題)
能勢-Hoover動力学において、分布関数\( f\)の全微分が以下のようになることを示せ。 \[ \dfrac{df}{dt}= \dfrac{\partial f}{\partial t} + \dot{p}_i \dfrac{\partial f}{\partial p_i} + \dot{q}_i \dfrac{\partial f}{\partial q_i}+ \zeta \dfrac{\partial f}{\partial \zeta} = dN\zeta f \]

Quiz 9(12月13日出題)
位相空間中のある領域\( \mathcal{D}(t) \)の体積のLagrange的な時間変化が、 \[ \dfrac{dV(\Gamma(t))}{dt} = \int_{\mathcal{D}(t)} d\Gamma(t) \Lambda (\Gamma(t)) \] となることを示せ。ただし \( \Lambda (\Gamma(t)) = \sum_i \left(\dfrac{\partial \dot{q}_i }{\partial q_i } + \dfrac{\partial \dot{p}_i} {\partial p_i} \right) \) である。

Quiz 10(12月20日出題)
\( f(x) \) を下に凸な関数とする。\(x\)を確率変数として、Jensen不等式 \[ \langle f(x) \rangle \ge f(\langle x \rangle) \] を示せ。

評価

期末レポート、およびQuizの解答状況(数問選んで、最後に提出)をみて総合的に判断する。

参考書、参考文献

一般的なこと

  • S. R. de Groot and P. Mazur “Non-equilibrium Thermodynamics”, Dover Publications
  • 一柳正和「不可逆過程の物理」日本評論社
  • 川崎恭治「非平衡と相転移-メソスケールの統計力学-」朝倉書店
  • 早川尚男「非平衡統計力学」サイエンス社
  • 北原和夫「非平衡系の統計力学」岩波書店
  • 鈴木増雄「統計力学、岩波講座現代の物理学」岩波書店
  • 戸田盛和、久保亮五、斎藤信彦、橋爪夏樹「統計物理学、現代物理学の基礎第二版」岩波書店

Einsteinのゆらぎの理論

  • L. Landau, E. Lifshitz 「統計物理学 (下)」岩波書店, L. Landau, E. Lifshitz, “Statistical Physics (course of theoretical physics volume 5) Butterworth-Heinemann”
  • A. Einstein, “Theorie der Opaleszenz von homogenen Flüssigkeiten und Flüssigkeitsgemischen in der Nähe des Kritischen Zustandes”, Ann. der Phys. 33 (1910), pp. 1275-1298. 邦訳 アインシュタイン選集1、監修 湯川秀樹 翻訳 井上健、谷川安孝、中村誠太郎 共立出版(1971)

大偏差性

Onsagerの相反定理、Onsager-Machlup過程

ゆらぎの定理、Jarzynski等式

未整理

  • A. Einstein “Investigations on the theory of the Brownian movement”, Dover
  • M. Ichiyanagi, “Conceptual developments of non-equilibrium statistical mechanics in the early days of Japan”, Phys. Rep. 262 (1995) 227.
  • R. Kubo, M. Toda, and N. Hashitsume, “Statistical Physics II, Nonequilibirum Statistical Mechanics” Spinter-Verlag
  • J. A. McLennan, “Introduction to Non-equilibrium Statistical Mechanics” Prentice-Hall
  • 佐々真一「非平衡現象論」講義ノート
  • 関本謙「ゆらぎのエネルギー論」岩波書店
  • N. G. van Kampen, “Stochastic Processes in Physics and Chemistry”, Elsevier
  • D. N. Zubarev, “Nonequilibrium Statistical Thermodynamics”, Consultants Bureau
  • R. Zwanzig, “Nonequilibirum Statistical Mechanics”, Oxford