統計力学2
理学部物理学科専門教育科目, 大阪大学, 理学部, 2022
専門科目、水曜日3限、理D303教室
試験
2月1日2限、A4サイズ1枚の手書きメモの持ち込み可、
メモは学籍番号と氏名を明記し試験終了時に答案とともに提出すること。
スケジュール
10月5日
イントロ: 統計力学2で学ぶこと
縮退した気体と粒子の統計性: 自由粒子におけるエントロピーの破綻
10月12日
縮退した気体と粒子の統計性: 波動関数の対称性と粒子の統計性。
10月19日
縮退した気体と粒子の統計性: 占有数とボース分布関数、フェルミ分布関数
理想フェルミ気体: 理想フェルミ気体としての金属中の電子
10月26日
理想フェルミ気体: 絶対零度での状態、有限温度の性質
11月2日
理想フェルミ気体: 有限温度の性質、パウリ常磁性
11月9日
理想ボース気体: 理想ボース気体、絶対零度近傍の性質とボース-アインシュタイン凝縮
11月16日
理想ボース気体: 絶対零度近傍の性質とボース-アインシュタイン凝縮(続き)、圧力とエネルギー・比熱
11月30日
理想ボース気体: エネルギー・比熱(続き)、相対論的ボース気体
12月7日
相互作用のある系: 実在気体、粒子密度関数と粒子分布間数
12月14日
相互作用のある系: 粒子密度関数と粒子分布間数、Lennard-Jones相互作用とvan der Waals気体、気液共存
12月21日
相互作用のある系: Lennard-Jones相互作用とvan der Waals気体、気液共存状態
1月4日
相転移と臨界現象: 相と相転移、臨界現象と臨界指数
1月11日
相転移と臨界現象: 臨界現象と臨界指数(van der Waals気体の臨界現象)、磁性体の臨界現象(Isingモデル)
1月18日
相転移と臨界現象: 磁性体の臨界現象
1月25日
相転移と臨界現象: 相転移の普遍性
2月1日
試験
Quiz
解答はCLE経由で提出すること。手書き文書のスキャン、Word文書、Tex文書など形式は問わないが、 最終的に提出時には一つのpdfファイルにまとめて提出すること。 基本的に提出締め切りは、出題日の一週間後の10時30分とします。
Quiz 1(10月12日出題)
\( N=2 \)の自由粒子で一粒子固有状態が\( k=1,2,3 \)の3状態のみしか取らない場合を考える。 全体のエネルギー固有関数 \(\begin{equation*} \Psi_{k_1,k_2}(\boldsymbol{q}_{A},\boldsymbol{q}_{B}) = \phi_{k_1}(\boldsymbol{q}_{A}) \phi_{k_2}(\boldsymbol{q}_{B}) \end{equation*}\)
に対し、粒子が区別できるとしたマクスウェル・ボルツマン統計では 微視的状態は \(\begin{gather} \Psi_{1,1}(\boldsymbol{q}_{A}, \boldsymbol{q}_B)\\ \Psi_{2,2}(\boldsymbol{q}_{A}, \boldsymbol{q}_B)\\ \Psi_{3,3}(\boldsymbol{q}_{A}, \boldsymbol{q}_B)\\ \Psi_{1,2}(\boldsymbol{q}_A, \boldsymbol{q}_B)\\ \Psi_{2,3}(\boldsymbol{q}_A, \boldsymbol{q}_B)\\ \Psi_{1,3}(\boldsymbol{q}_A, \boldsymbol{q}_B)\\ \Psi_{1,2}(\boldsymbol{q}_B, \boldsymbol{q}_A)\\ \Psi_{2,3}(\boldsymbol{q}_B, \boldsymbol{q}_A)\\ \Psi_{1,3}(\boldsymbol{q}_B, \boldsymbol{q}_A) \end{gather}\) の9こである。
- ボース・アインシュタイン統計での完全対称な波動関数を、上の波動関数をもとに具体的に表せ。また微視的状態の総数はいくつになるか。
- フェルミ・ディラック統計での完全反対称な波動関数を、上の波動関数をもとに具体的に表せ。また微視的状態の総数はいくつになるか。
Quiz 2(10月26日出題)
一辺\( L \)の立方体に閉じ込められた自由粒子の一粒子エネルギー状態密度\( g(E) \)を求めよ。 これをつかって電子がスピン\( 1/2 \)を持つことを考慮し、絶対零度における粒子数の期待値から フェルミエネルギーの表式を求めよ。
Quiz 3(11月9日出題)
一次元、および二次元ではボース-アインシュタイン凝縮が起きないことを、三次元の時の議論を参考に示せ。 なお一次元では一粒子エネルギー固有状態の状態密度がエネルギーの\( -1/2 \)乗に比例すること、 二次元では状態密度が定数である事を使ってよい。
Quiz 4(11月30日出題)
一辺の長さが\( L \)の正方形領域に閉じ込められた理想ボース気体について、 エネルギーの単位を\( E_0 = \pi^2 \hbar^2 / 2 m L^2 \)として、 基底状態のエネルギーは\( \epsilon_0 = 2 E_0 \)、第一励起状態のエネルギーは\( \epsilon_1 = 5 E_0\)である。温度が\( k_\mathrm{B} T \ll E_0 \)をみたし、十分に低く絶対零度に近い時、示量的な数の粒子\( N_0 \)が基底状態を占めている。 \(\begin{equation} N \simeq N_0= \dfrac{1}{e^{\beta (2E_0 - \mu)}- 1} \end{equation}\) このとき二重縮退している第一励起状態をとる粒子数 \(\begin{equation} N_1= \dfrac{2}{e^{\beta (5E_0 - \mu)}- 1} \end{equation}\) が示量的な数ではないことを示せ。
ヒント: \( 5E_0 = 3E_0 + 2E_0 \)とわけ、\( 2 E_0 -\mu \)を含む部分を\( N_0 \)をつかって表す。 その後温度と\( E_0 \)の関係、\( N_0 \)が示量的な数である事をつかって評価する。
Quiz 5(12月14日出題)
散乱実験で測定される構造因子 \(\begin{equation} S(\boldsymbol{q}) = \dfrac{1}{N} \left\langle\left\lvert \sum_{j=1}^N e^{-i \boldsymbol{q} \cdot \boldsymbol{q}_j} \right\rvert^2 \right\rangle_{eq} \end{equation}\) を動径分布関数\( g(r) \)を含む積分で表せ。
Quiz 6(1月11日出題)
1次元Isingモデルの分配関数 \(\begin{equation} Z_N = \sum_{S_1=\pm 1} \sum_{S_2=\pm 1} \dots \sum_{S_N=\pm 1} e^{ KS_1 S_2 + \frac{G}{2} (S_1+S_2) } e^{ KS_2 S_3 + \frac{G}{2} (S_2+S_3) } \dots e^{ KS_N S_1 + \frac{G}{2} (S_N+S_1) } \end{equation}\) が、行列\( M \) \(\begin{equation} M = \begin{pmatrix} e^{K+G} & e^{-K} \\ e^{-K} & e^{K-G} \end{pmatrix} \end{equation}\) をつかって \(\begin{equation} Z_N = \mathrm{Tr} M^N \end{equation}\) となることを確認し、分配関数\( Z_N \)を具体的に求めよ。
評価
平常点(50%)、および期末試験(50%)で評価する。平常点は、適宜出題する小レポート(Quiz)の提出状況で評価する。 シラバスを参照すること。
参考書、参考文献
- 湯川諭「統計力学」 (日本評論社、2021) (正誤表がhttps://stsykw.github.io/StatisticalMechanics-support/にあります。)
- 田崎晴明「統計力学I,II」(培風館、2008)
- 菊池誠「統計力学のはじめの一歩」(統計力学1の教科書、2022)